ただの狂信的で野蛮な武装集団、というイメージを覆された一冊
ニュースによく出てきた「イスラム国」って何なんだろうと思って買った本。
日本という安全な場所で、宗教への馴染みもほとんどない自分がニュースで見る「イスラム国」は、狂信的でただただ残忍で怖い集団という印象しかなかった。自分達の宗派に合わない人や都合の悪い海外ジャーナリストを攻撃・誘拐して、土地やお金を略奪しているのかな、くらい。
でも実態は、ニュースで見る映像などはプロパガンダのために意図して流しているもので、残忍な面とは別にかなり現実的な面もあるというのは驚いた。生産的資源(油田や水力発電所など)を活用して得た収入で経済的に独立していたり、その収入で制圧地域のインフラを整備し住民の支持を得たり、決算報告書を作成したり、本当にイスラム国家の建設を目指しているのだという。
もしテロという手段で国家建設ができてしまったらと考えると恐ろしい。。。
そういったイスラム国の特徴や、そもそもイスラム国とは誰が何のために作ったのか?何が目的であんなことしてるの?などの根本的な疑問を比較的分かりやすく解説してくれています。
のっそのっそ人間メモ
以下はのっそのっそ人間なりに内容をざっくり咀嚼したメモです。多分に誤りのある可能性がありまして、間違いや追記があれば今後随時更新していきます。
中東の地図とイスラム国の勢力範囲(2014年時点)
まずイスラム国はどこで活動しているのか。2014年時点ではシリアとイラクに国境をまたいで勢力が拡がっていた。
そもそも「イスラム国」って何なの?目的は?
ということでそもそもイスラム国とは何なのか。「イスラム国」とはイスラム教スンニ派(※1)の過激なサラフィー主義(※2)組織で、厳格なイスラム国家の建設を目指している。欧米や他宗派の排除や、領土制圧のためにテロなど暴力的な行為も辞さない過激な人たち。
用語と意味
- スンニ派(※1)•••イスラム教最大の宗派。イスラム共同体が選んだ後継者を最高指導者とする。
- サラフィー主義(※2)•••イスラム教の初期の教えに厳格に従うことを是とするスンニ派の思想。本書ではさらに「現代のサラフィー主義」というものを区別して定義しており、それはサラフィー主義に、19世紀末からの欧米の植民地主義に反発する強い反欧米的な思考が加わった思想で、サラフィー主義の過激版のようなもの。
誰がどう作ったの?というざっくりとした流れ
時は1966年、ザルカウィというベドウィン属出身の人がヨルダンに生まれた。
成長した彼は少しやんちゃだったため、20代の頃に逮捕されて5年ほど刑務所に服役する(5年てなかなかの犯罪者ですな)。そこで過激なサラフィー主義となる。
出所後すぐ、アフガニスタンでソ連と闘うムジャヒディン(※3)に参加したい!と思って行くが時すでに遅し、参加できず。
ソ連のアフガニスタン侵攻
1979年に共産主義政権を守る名目でアフガニスタンにソ連軍が侵攻、その時にソ連軍と戦ったイスラム教の兵士を「ムジャヒディン」と呼んだ。
その後、アメリカを標的としていたアルカイダに参加するのではなく、ヨルダン政府を倒しイスラム国家を建設するんだ!という目的のために、アフガニスタンのヘラートでテロリストキャンプを作り訓練をし始める。
2003年、「タウヒード(※4)とジハード(※5)集団」を率いて、イラクで自爆テロを開始。有志連合軍とシーア派(※6)両方に対してテロを行う。シーア派を攻撃することで宗派抗争を煽り、スンニ派の支持を得て活動しやすいようにした。
後にアルカイダの傘下に入り、「イラクのアルカイダ」の指導者として兵や資金も集め安くなり更にテロを繰り返す。シーア派への執拗なテロで、イラクは内戦寸前となる。(ザルカウィの思惑通りになってしまうのか。。)
しかし、2006年にアメリカの空爆でザルカウィは死亡。指導者がいなくなったため組織内で内紛が起き、時を前後してアメリカが兵を増派したこともあり、イラクのジハード集団は弱体化していった。
4年後→
2010年にバグダディが「イラクのアルカイダ」残党の指導者になり、組織名を「イラク・イスラム国」とする。バグダディは2003年に「タウヒードとジハード集団」に参加しザルカウィと活動をしていたことがあった。
バグダディはイラク国内でアメリカ人やシーア派を標的としたテロを続けたが、規模が小さく思った成果は出なかったため、2011年に内戦状態だったシリアへ進出する。内戦に参加することでメンバーは軍事訓練を受けることができ、いろいろな組織が入り乱れる中で他の集団から武器や金を奪うこともできた。
このバグダディ率いる「イラク・イスラム国」はシーア派へのテロを続け、ライバル関係であれば同じスンニ派でも攻撃を辞さないという事で、周りから凶暴な組織として恐れられていた。
アルカイダのシリアの出先機関「ヌスラ戦線」の目的はアサド政権の転覆であるのに対して、バグダディの「イラク・イスラム国」の目的はあくまでイスラム国家の建設であり、根本的に目的が違う。
その後シリア・イラクで領土を拡大していき、2014年にバグダディをカリフ(※7)として「イスラム国」の樹立を宣言。
用語と意味
- ムジャヒディン(※3)•••アラビア語で「ジハードを遂行する者」という意味。「聖戦士」と訳されることも多い。
- タウヒード(※4)•••イスラム教の用語で神の唯一性を意味する。
- ジハード(※5)•••アラビア語で単に「戦い」という意味。大ジハードと小ジハードがあり、大ジハードは己の欲望や誘惑との日々の戦いを意味し、小ジハードは侵略者に対して武力でイスラムを守る戦いを意味する。
- シーア派(※6)•••スンニ派に次ぐイスラム教の宗派。ムハンマドの女婿アリー(第4代正統カリフ)の直系のみを最高指導者とする。
- カリフ(※7)•••世俗・宗教の両方におけるムスリムの最高権威者の称号。
アルカイダなどの他の組織との違いは?
目的が違う。アルカイダの目的は反米であり欧米の影響を排除することが目的だが、イスラム国の目的はあくまでイスラム国家の建国であり、ライバルであれば同じスンニ派の組織でも攻撃を辞さない。
なぜこのようなテロ組織が国家を宣言するほど勢力を拡大できたのか?
複雑な情勢のためいろいろな理由があるようだが、印象に残ったものをいくつかピックアップ。
①現代の代理戦争の中での巧みな立ち回り
米ソ冷戦の時代の代理戦争は2大国が大きなスポンサーであり比較的単純な構図だったが、現代の代理戦争は多くの国や宗派/民族の思惑が複雑に交錯している。そんな中で、”欧米の有志連合軍”VS”シーア派の組織”という戦況の中で両方に対してテロを行ったり、内戦状態だったシリアに目をつけ勢力を拡大していったりと、その時の状況に合わせた巧い策をとっている。
②インターネットを駆使したプロパガンダ
ニュースでよく見たような印象の強い映像を世界に流し、自分たちのイメージを巧みに作り上げ発信していった。欧米や腐敗した政府の支配に嫌気がさした人たちに取ってはそれが希望のように映り、海外からも多くの兵を集めて勢力を拡大した。
③暴力的手段と現実的手段の使い分け
領土拡大のために武力を使う一方で、制圧地域ではシャリーア(イスラム法)遵守を強制させ法による統治をし、生産的資源の活用による収入でのインフラ整備をし住民の支持を得るなど、国家たらんとする手段も取っていた。
雑感
まず、ザルカウィ・バグダディって似た名前だったり、サラフィー主義・シャリーア・ムジャヒディン・ヌスラ戦線などの聴き慣れない単語も多くて、中東の話はそういった単語を理解することがまず難しい。
その点この本は巻頭に用語と意味の一覧があるので、あまり中東に馴染みのない人にも読みやすくておすすめです。
こういったイスラム過激派の人たちはムスリムの中でもごく僅かということだが、他のムスリムの人達は「イスラム国」のような組織のことをどう思っているのだろうか。
この本は2014年時点の話なので、それから現在2020年までの経緯を知りたいですね。それはまた別の記事で書こうと思います。
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