この本は、三越創業350周年を記念し、雑誌 『オール讀物』に掲載された、6人の作家による短編小説をまとめたもの。もちろん全部「三越」を題材にしたオリジナル小説である。
残念ながら私は三越に行ったことはないが、相当な老舗だろうことはなんとなく知っていた。とはいえ350年もの長い歴史があるとは驚いた。2023年で350周年ということは、1673年創業ということか。Wikipediaをみると確かに1673年のページに
- 三井高利が呉服店「越後屋」を開業(現在の三越の原点)
とある。特に意識もしていないのに「越後屋」って言葉は知っているのはなぜだろう。ちなみに1673年は他に
- 中国:三藩の乱起こる
- ジャン=バティスト・リュリ、最初のオペラ『カドミュスとエルミオーヌ』を作曲。
- イングランドで審査法制定。
などが起こっていたらしい。ピンとくる出来事があっただろうか。私の脳はピクリともしない。古さを実感したいのにできない。歴史に詳しくなりたい。しょうがない、ニュートンが万有引力を発見したとされている年が1665年、という事で「三越は万有引力くらい古い」と覚えておくことにしよう。

これだけ歴史があり、しかもそれが一つの企業、というのはなかなか無いと思うので、そりゃ記念に何かしたくなる。付き合って1周年ディナーに行くカップル、結婚10周年で旅行に行く夫婦、創立350周年で小説を作るデパート。そんな感じでしょうか。記念に物語を残すっていうのが素敵ですね。
ちなみにこの本の表紙絵には、三越の包装紙「華ひらく」のデザインが使われている。

タイトル『時ひらく』も「華ひらく」から付けられたそう。三越ユーザーなら気づいただろうか。
さて、三越デパート未体験の私がこの小説を読んでどうだったかというと、シンプルに「三越行ってみてぇ…」となった。というのも、話の舞台となる三越デパートの外観やフロアの雰囲気をそもそも知らないし、ましてや、小説の中で印象的に出てくるライオン像や天女像、パイプオルガンなどというのは存在すら知らなかった。そのため、現在の私の頭の中には、小説を読みながら勝手に想像したオリジナル三越デパートができあがっている。ちなみに最近ONE PIECEを見たので、天女像はなぜか、人魚のしらほしのイメージ。
そんな状態なので、今、猛烈に三越に行って実物を確認したい。アンモナイトも探したいし、お子様洋食も食べてみたい。いつか行く日が待ち遠しい。この小説を読んで、そんな楽しみができた。これは三越を知らないからこその楽しみだろう。そう考えると知らなくて良かったとも思う。
三越を知らないそこのキミ!『時ひらく』を読んで、あなただけのオリジナル三越デパートを作ろう!
さて、ここからは小説の印象に残った場面の話です。少し内容に踏み込むのでネタバレがあります。ご注意を。
個人的に印象に残ったのは、伊坂幸太郎『Have a nice day!』で主人公がライオンから未来予知?のような光景を2つ(以下の①と②)見せられる場面。
①空を蠢く黒い何かが地上の人々を襲う光景
②ブランドのバッグを身につけた主人公が赤い箱の前で手を叩く光景
①の光景は主人公が三越に駆けつけた時に自然の流れで目撃した。しかし②の光景については、主人公はブランドのバッグをわざわざ購入して、意識的にその光景を再現しにいった。そして無事②の光景を再現できたので地球は救われた。(小説内では②を再現したから救われたかどうかは明言されていないが、そうしておく)
つまり①は未来予知で、②は条件だったということ。
となると今後もし、未来予知のような光景を見せられたら、予知か条件か見極めなければならない。そこでヒントになるのは、それが誰かの動作の光景であれば条件の可能性が高いのではないか。とにかく、予知か条件か、場合分けして準備をしなければならない、これは勉強になった、と。私はそんなことを考えた。
読書会でこの話をしたら、他のメンバーがなんとも言えない表情をしていた記憶がある。最後まで聞いてくれてありがとうみんな。

他の人の感想は
・『思い出エレベーター』の大地の、子供の時に自分の気持ちのモヤモヤが言語化できない、というところに非常に共感した
・『七階から愛を込めて』の「武陵桃源に遊ぶの感」に、同じサービス業として感銘を受けた。
など、短編集なのでそれぞれに刺さるところがあった。
この本は、読書会のテーマ本として提案されて、結果、三越を知る良い機会になった。人に紹介されるのはこういうところが良い。
ぜひ読んでみてくれよぉぉ〜


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